降りる人を待ってから乗りたくなる電車の入り口 | ときど記 後記

降りる人を待ってから乗りたくなる電車の入り口

僕が何の気なしに口にした


降りる人を待ってから乗りたくなる電車の入り口


について、友人 が考察してくれました。



このブログで、電車での悲喜こもごも?を書いた記事 に対するコメントでのやりとりの中で、そんなありそうもない電車のアイデアが出てきたのでした。


あったらいいな、が、ない。

僕も考えてみます。




デザインは、現状の問題点を洗い出すことから始まります。

今回検討する電車の入り口の問題点は、


降りるひとを待たずに電車に乗り込むひとが多い

という不都合。



では、そもそもそれが問題になるのはなぜか。


客が降りる前に新しい客が乗車を始めるのが、明らかに非効率だからです。


車内の空間は有限です。だから、新しい客が乗ってからでは降りたい客は降りづらい。

いくらか降りるひとがあって、車内が空いてからの方が乗る人も乗りやすい。



ではなぜ、非効率的であるにも関わらず、乗る側の客は急ぐのか。

また、ストレスの構造的な原因はどこにあるのか。


1. 降りる客と乗る客がすれ違うときにぶつかるほど、乗降口が狭い

1'. 狭い中をすれ違って移動することで感じるストレス。

2. 「待つ」ことに対する本能的なストレス

2'. (特に都会の電車は)定刻通りに発着することが求められている。



1.と1'.について。


電車の乗降口のサイズには限界があります。

電車の壁全てを乗降口にすることは不可能。なぜなら、ひとは自分の目的の駅以外では(基本的には)乗り降りしないためです。乗り降りに関係しない客を保護する必要性から、壁を前面ドアにすることは無謀です。


乗降口を大きくする取り組みは既に東京メトロの一部の列車で試みられていますし、これはある程度効果を上げているように思いますが、

根本的な解決には至っていません。



2.および2'.について。


人間がストレスを感じ始める電車の待ち時間は9分何秒かだ、という実験結果を、先日テレビで見ました。

「待つ」こと、他人のために自分の行動を止めることに対して、人間は本能的にストレスを感じるといっていいでしょう。


いっぽう、電車の運行スケジュール

本来は鉄道会社側の都合であるのに、利用客側もそれによって恩恵を受けています。電車がいつ来るのかがわかるという利点です。

何時間も待った挙句電車を捕まえられない、ということは日本では起こりにくい現象です。


ただし、それは鉄道会社・利用客の双方を急かせるという弊害を生みます。


スケジュール通りの運行は便利だと認知される

 → スケジュール通りに運行されて当たり前

 → そのために急ぐのは当たり前

 → とにかく急ぐ


タイムスケジュールは狂わないに越したことはありません。

しかし、一方で、少しでも遅れることに対する無意識の怯えのようなものを多くのひとが抱えています。


人間の本能はもとより、すでに皆が多大な恩恵を受けている電車のスケジュールの存在を変更することは、不可能です。


新しいデザインは、これらのものを前提とした上で考える必要があります。




そこで。


1.から2'.までを包括して解決できる方策の一つは、


乗り口と降り口を分ける」ことです。要は、バスの方式です。



電車の乗り口と降り口を分けることで、乗るひとと降りるひとがぶつかることは解消されます。


また、電車では、乗り降りが同じドアでなされるために、乗車後、1駅ですぐに降りたいというひとが車内のドア付近に溜まり、車内の奥の方とドア付近で混雑の具合が大きく異なりがちです。

これも非効率的ですが、乗り口と降り口を分けることで、ドア付近に客が溜まって乗り降りしづらくなることも減ります。



もちろん問題点もあります。



一つは、バスと比べての規模の問題


バスは、いわば一両編成だからこそ乗り口と降り口を分けることが容易です。

一方、電車は、8両から15両編成が主流で、移送人数もバスよりずっと多い。

だから車両一つ一つに乗車専用のドア・降車専用のドアを設置することは困難だといわざるをえません。



次に、乗り降りを分ける必然性


バスは、乗車後に運賃を払います。だから、客に乗車時(もしくは降車時)に運賃を支払ってもらう必要があり、運賃箱の位置に応じて乗り口・降り口が分けられます。


いっぽう電車を利用する場合、バスと違って、乗車後ではなく、乗車前、駅の改札を入る前に切符を買うことで運賃を支払います。

だから、車体の乗降口を2つにわける必然性がバスに比べて弱いといえます。



また、乗り口と降り口を分けることで、駅の混雑を助長する可能性があります。


単純計算すれば、現在の列車に設けられたドアのうちの半分が乗り口専用になり、もう半分が降り口専用になります。

つまり、駅で乗客が並ぶべき位置が現状の半分に限定されます。

それによって、乗車位置がわかりにくくなる、いっそう混雑がする、といった弊害が考えられます。



もちろん、「慣れ」の問題もあり、改善点山積み、穴だらけのアイデア...です。




...前述のように、急ぐこと、待つのを嫌うことが人間の本能だとすると、

電車、駅、それらを包括したシステム全体を見直さない限り、僕たちの理想である「降りるひとを待ってから乗りたくなる入り口」の実現は不可能です。


乗り口・降り口を分けるという案は、節々に問題もありますが、構造的に駅と電車を改善するためのヒントにはなると思います。


どうだろう、カレンちゃん。