電車はドラマでいっぱいだ | ときど記 後記

電車はドラマでいっぱいだ

帰宅ラッシュの電車内。



電車が駅に着き、ひとが乗り降りしていると、

がさっ、という紙袋の落ちる音と、「なんなんだよ!?」という、男性のぶっそうな声がしました。


電車の乗降口に立っていたサラリーンマン風の男性が、これまたサラリーマンらしい降りる男性の邪魔になったようで、

降りようとした方の男性が、なぜかかっときたようなのでした。


あ、ごめんなさ...という男性の声をかき消すように、降りろお前、やるのか、と、ぶっそうな男性の声が聞こえてきました。

外で、どちらかがどちらかを一方的に殴っている音がします。



僕はそちらを見ませんでした。

周囲のお客さんみんなが、その喧嘩の様子を見ていると思ったから。


僕は止めに入ることもできませんでした。僕の知恵と腕力じゃ、余計な被害を新たに出すだけと思ったから。



電車の発車ベルが鳴ると、男性が急いで車内に走り込みました。すぐにドアは閉まりました。

もう片方の男性は、荒っぽい声をあげながら外から電車のドアや車体を叩いていたようでした。



静かになった車内は変な遠慮と緊張に満ちていました。



僕は、強くならなきゃいかんと思いました。

もちろん、喧嘩に勝つためではなく。


僕は身長も体格も、見ただけで相手がびびるようなレベルには程遠い。


だから、中肉中背のひとにからまれても、怯えない程度に。

できれば、喧嘩をしかけたひとを止められればいいのだけれど。



そこで頭に浮かんだのは、友人のI君。


中高6年間バスケをしていたという彼は、気は小さいけれど、背は僕が見上げるほど高いし、体格もいい。

実はお酒も強い。


彼なら、あの喧嘩の現場に居合わせたとき、どうしただろうと考えました。まあ、どうもしないのかな。



考えていたら、ちょうどそのI君からメールが届きました。


メアドを変えたのでまた登録しておいてくださいという内容。

滅多にメールをやりとりすることもないのに、こんな時に限って連絡がくるものです。


登録したよー、とだけ返信しました。



電車が駅に着き、僕が降りると、さっき殴られていた風の男性も同じ駅で降りていました。


彼は、ふつう、でした。

傷跡も、動揺も、ぱっと見には表れていませんでした。


先刻の騒動がなければ目に留めることもなかったでしょう。

ふつうのサラリーマンでした。